鮎斗君とお散歩Ⅳ 心無い人達の冷たい視線に耐えてゴルフボールと鮎斗君は何も言わずにあるき続けた

鮎斗君
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鮎斗君とお父さん、いつものことさ

 

いつものように、家を出てバイパスを南下し河川敷の散歩道を歩き、街にでてそこからは縫うように街なかを抜けて、トンネルを通り、公園へ向かう片道約12kmコースだ。途中、トンネルの少し手前に小さなゴルフショップがあった。道路沿いにあったその店は、いつもはなんの興味もなくただ通り過ぎていたのに、その日に限って歩道から駐車場を入り店へ入ろうとしていた。

 

それまで、鮎斗君がゴルフに関して気に留めたりした事は無かったし何らかの興味を持ったことはないと思っていた。なにか嫌な予感がしたが、時既に遅し、鮎斗君はその店に入っていった。店の奥には店員らしき3人が、丸いテーブルを囲んで話し込んでいたが、鮎斗君が店内にはいると、普通にしずかに「いらっしゃいませ」と声を発したのが聞こえた。鮎斗君はその狭い店内を早足でぐるぐる周り始めるが、商品を見るでもなく、手に取るでもなく、ただ回り続ける。お父さんはなにかあればすぐに対応できるように、鮎斗君はの服の背中を掴みながら、すぐ後ろに付いて一緒に回っている。普通の人達から見れば、鮎斗君とお父さんのその挙動は一見して”普通じゃない”雰囲気をだしていることに気づくようだ。時々、「ウぅー、ウぅー」と唸り声を発するので、障がい者だとすぐにわかったのだろう。店のおくから明らかにヒソヒソとこれ見よがしに顔を近づけあって、時折こちらをチラ見しながら、少し抑えたような笑い声が漏れてきていた。

心無い人達は確かに、ここにいます

 

お父さんは、その屈辱的な雰囲気に耐える自身が無かった。早くここを出なければと、鮎斗君に4個ぐらい入ったゴルフボールのセットを一箱買った。と、途端に鮎斗君は高価そうな大きな、クラブを入れるためのゴルフバックに手をかけていた。お父さんは強い口調で「ダメッ」と言って無理やり腕を引っ張って店を出ようとしたが、当然そう簡単にはいかない。これまでも、こんな場面は数々経験してきた。こんな屈辱も何度も味わってきた。鮎斗君も同じ数だけ経験を積み重ねているので、今はもうパニックは起こさない。また、時間をかけないで諦める事を覚えてきていた。お父さんは、さっき買ったゴルフボールを手渡してみた。少し不満なようだが、なんとか気分を転換してくれたようで、お父さんに背中を押されながら出口に向かってくれた。店を出際に「すみません。」と一言添えたが、今度はその店員達はヒソヒソどころか、「ガハハ」と堂々と声をあげて笑っていた。

 

店を出て、トンネルの歩道をオレンジの薄暗い灯火に照らされて、何事も無かったように歩く鮎斗君の後ろをトボトボ歩いた。自然に涙がボロボロ溢れて止まらなかった。心無い人達の冷たい視線がお父さんの心を挫いた。
汗拭き用のタオルを目頭に押し当てて流れる涙を拭いながら、スタスタ歩く鮎斗君に追いつき、そして追い越際、顔をのぞき見ると、”ニッコ、ニコ”の笑顔だった。

 

その後はいつものように、買い物したレジ袋を下げて、来た時の河川敷の遊歩道を飛び交う赤とんぼを追いながら、疲れた顔も見せずに時々”怒ったり”、”ニヤニヤしたり”しながら歩き続けた。

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