鮎斗君のお散歩Ⅴ 清掃センターのお風呂 北部清掃センターごみ焼却で発生する熱を利用する入浴施設まで片道約8kmのコースだ。

鮎斗君
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ごみ焼却で発生する熱を利用した入浴施設

今回の鮎斗君のお散歩は北部清掃センターまで片道約8kmのコースだ。いつものように、朝起きるとすぐに着替えてお出かけモードになっている。何処へ行くかはわかっていないのだが、慌ただしく、”俺はすぐにでかけるぞ!絶対行くぞ!誰にも止められないぞ!”と言わんばかりに、ただ黙々と誰にも止める隙きを与えないかのように準備を進める。猪突猛進だ。着替えは前の晩にお母さんが用意してあるものを自分で身につけるが、放おっておくと、どういうわけかパンツだけ後ろ前に履くのでお父さんが「反対!」と声を掛けると、パンツの後ろに付いたラベルを見て、履き替える。シャツなどは最初からラベルを見て普通にきられるのだ。歯磨きをして、ご飯を食べる、お薬を飲んで、さあ出発だ。

家を出てあるき始めるまでは一つ一つの行動が、前のめりで誰にも止めさせない勢いで進めるのだが、表に出てお散歩が始まると、安心したようにゆったりとして安定したペースになる。家を出るまでは「今日は何があるんだろう、何処へ行くんだろう、何が始まるんだろう」という先の見通せない不安があるんだと思う。逆に言うと先の目的がはっきりわかるときは、ゆったりと安定した行動になるようだ。

その日は、タオルを一本持たせると、「お風呂だな!」とわかったようだ。鮎斗は歩くペースが早いので、お父さんは追いつくのが大変だ。10mくらい離れると、「ストップ、まって!」と声をかけると、立ち止まって、お父さんが追いつくのを待ってくれる。

散歩のコースは河川敷の土手から遊歩道を通って、町に出るまではどのコースも同じだ。いつもは町に入って国道を右方向へ向かう”公園コース”だが、今回は左方向へ向かう”清掃センターコース”だ。「今日はこっちか」とわかって、不満はない様子なので一安心だ。

しばらく歩いて、養護学校の近くに来ると道路脇にある自販機で缶ジュースを買うのがいつものパターンだ。飲むのは、「ジョージアのエメラルドマウンテン」と決まっている。それ以外には目もくれない。缶を開けて、一口づつ味わって飲むのではなく、”グビ、グビ、グビ”とほんの数秒で一気に一息で飲み干してしまう。いつもの決まった場所の自販機で、いつもの決まった缶コーヒーを、いつものように飲み干す、というのが一連のパターンとなって、一つの儀式のようになっている。

養護学校をすぎると清掃センターまであと一息だ。いよいよ目標が近づいてくると鮎斗君の表情は和らいで鼻歌が出てくる。機嫌の悪いときは両手の甲を耳に押し当てて「ウぅー」という唸り声で周りの音を遮断する動作をするのだが、機嫌のいいときは、これは、鮎斗君にしかわからないのだが、お父さんには意味の解らない一つ一つの文字をつなげて、なにか呪文をとなえるかのような語句をつぶやいているように聞こえるのだが、それはメロディーやリズムもないが、きっと鼻歌なんだと思う。「こっここかぁ、ききかぁ」、「でかかぁ」などである。

清掃センターに着くと、後は勝手知ったる我が家の如く、受付に二人分100円を置いてトイレを済ませて、服を脱いでまず体を洗う。鮎斗君は自分で体を洗うことは出来ないのでお父さんが全介助する。タオルに石鹸を塗りつけて、普通に洗うが、胸を触られることを異常に嫌がるので、胸を洗うには一苦労する。どうしてそうなったのか不明だが、多分、男の子は思春期の変声期には乳首が固くなり敏感な状態になるが、その時期の感覚が残っていてそれを嫌と感じているのかもしれない。

とにかくなんとか誤魔化しながらすばやく胸を洗って、いよいよ湯船に入る。湯船はそれほど大きくはなく、多分10人くらいは入れるだろうが、いつも2、3人の常連さんらしき年配の人が入っている。風呂場に入ると塩素の匂いが混じったような蒸気が充満して一瞬蒸しっとする。温泉では無いのであの蒸せるような硫黄の匂いはしないのだ。施設は新しくはないが清掃が行き届いて湯もきれいだが、少し熱い。湯船に浸かると、お湯を手のひらに取ってキラキラ光るお湯をしばらく眺めています。小さい頃から水に異常に興味を示し、特に水風呂は大好きだ。すぐに水で湯を薄めようとする。家でお風呂のときは完全に水にしてしまい、後から入る時は沸かし直ししなければならないので、困ってしまう。公共の場所ではそれはなかなか出来ないので止めさせるのに一苦労だ。

お風呂から上がったら、アイスを食べたいのだがここには置いてないので、自販機で缶コーヒーを飲む。「グビグビ」一気飲みする。ここの敷地内にはテニスコートも併設されていて地域の人たちが練習に利用しているようだ。帰り道施設を出てコースの脇道を歩きはじめる。テニスボールの「ターン、ターン」と打ち返される音を聞きながら、「とっこっこかあききか」、「でかか」などと鼻歌が出る、顔を覗き込むと、ニコニコ穏やかで満足げだ。そんな風に帰路につき鮎斗君の一日が終わっていく。

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