成長の記録 鮎斗君のこだわりは、見たものをそのまま風景写真のデータベースのように記憶して、一枚一枚取り出してはそれを再現しようとする

鮎斗君
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鮎斗君のこだわり

 

鮎斗君の一日は、ゲームで始まりゲームで終わる。ゲームをやる時、どのゲームをやるか順番やその難易度(レベル)、対戦モード、音量や繰返す回数、そして複数あるコントローラーを置く位置なども決まっていてそれを変えようとはしない。お父さんが設定を間違えると何度も最初からやり直しをさせられるのだ。ストリートファイターは同じタイトルの同じバージョンでラベルの状態も同じカセットが4個あるが、お父さんには全く同じに見えるカセットも、キッチリこのカセットと見分けてしまう。鮎斗君の強い”こだわり”だ。

 

以前、家の前に作られた鮎斗君の壊れた自転車を積み重ねたオブジェがあった話をしたが、それも”こだわり”の一つにだ。そのオブジェは時間が経つにつれて、いつの間にか無くなってしまっていて、その”こだわり”も少しづつ忘れ去られたのだった、がしかし、その”こだわり”は無くなったわけではなかった。

 

ある時、通所施設から帰るといつもと違う行動パターンをとった。夕飯を食べていつものように表に飛び出した鮎斗君を、お父さんが追いかけると、車に乗らずにズンズン歩き始めたのだ。以前住んでいた住宅団地の方に向かっているようだった。以前はその住宅団地の6階で暮らしていたから、またその部屋に帰ろうとしているんだなと思った。今の家に引っ越してからもう何年も経ってるのに、まだ忘れていなかったのだ。

 

今の家に引っ越した当時は、環境の変化に対応しきれていなかったのか、以前の楽しかった頃の環境を取り戻したかったのか、その6階の部屋の前まで行こうとしたことがあった。その部屋には当然、もう既に別の家族が暮らしているのだから、そこへ行くのをなんとかして諦めさせねばならなかった。そんなことが何度かあって、鮎斗君の頭からはその6階の部屋が離れなかったようだ。でも、それからもう10年以上も経って、すっかりそんなことがあったことも忘れていたから、なんで住宅団地の方に向かうのか、すぐには分からなかった。でも、また6階の部屋へ行こうとしているんだなと思い出しながら鮎斗君を追いかけた。しかし、鮎斗君が向かったのは6階の部屋ではなく、2棟ある住居棟の間にある自転車置場だった。

 

その自転車置場は60台位は置ける割と大きな置場だが、そこにある自転車をしばらく、なにか探すように見回していた。そして鮎斗君は、一台の自転車に手をかけて運び出そうとしている。その自転車は以前、家の前にあった壊れた自転車のオブジェで、お兄ちゃんが通学に使っていた自転車と偶然同じものだったからお父さんは少々驚いた。

 

家の前の庭から消えてしまった”こだわり”のオブジェが鮎斗君の頭の中で蘇っていたのだ。もちろんその自転車をそこから持ち出すことは出来ないから、それもなんとか諦めさせなければいけません。何度も分からせようとしても、当然鮎斗君には理解できませんから、その場を動こうとしません。鮎斗君とお父さんの持久戦だ。お母さんと携帯で連絡をして、鮎斗君の好きな”おやつ”で釣って、気分を転換させる作戦も試みたが、それもなかなか上手くいかない。やはり鮎斗君がパニックを起こさぬよう、自然に気分を変えられるまでじっくり待つしかないのだ。そして辺りが真っ暗になる頃、やっと諦めてくれて家に戻ることが出来たのだった。

 

鮎斗君の”こだわり”は今も様々な所に存在するが、最近ではすこしづつ自分自身で辞め時、諦め時をみつけることができるようになってきたようだ。鮎斗君自身が、”「もう、終わりにしなさい」と言ってくれ”と、言うようにお父さんの目をみて「ウっ、ウゥ」と、低い声をだして促してくることに気づいて、「もうおしまいだよ」と声を掛けると、すんなりと次の行動に移ってくれるようになったのだ。鮎斗君が少しづつでも成長してくれていることに大きな喜びを感じた。

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